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ティッシュに丸めてポポイのポイ!

 

「おえっ」

 

吐いた。女の子がぼくのTシャツの胸にツインテールにした頭をおしつけてゲロゲロと吐いた。

 

メタ的に言うところの「オタサーの姫」然とした見た目である彼女の特性は、近年急速にインターネット・ミームのひとつとして形成されたステレオタイプのそれと寸分違わず、つまりブスだ。

 

それもすげえブス。顔が丸い。丸いどころか、洋菓子のハーバーのように横長である。CMソングを思い出して、本人を目の前にして笑いそうになる。

目と唇は小さい。この2つだけはとびっきりお淑やかだ。唇消失バグ、などと思いついた時も声に出して爆笑するのを必死に堪えた。

鼻は低いくせに大きい。顔にゴキブリが薄くへばり付いているかのようだ。

 

しかし、彼女は典型的なオタサーの姫。ミームの体現である彼女は、例によって男所帯のオタサーでひどく激しく承認されていた。

ぼく以外のほとんどのメンツは、今まで接触したことのない異性との邂逅にはしゃぎ、騒めき、狂っていた。そのうち制御不能になるのは目に見えていた。そこまででミームとしてワンセットだ。

残念ながら、ぼくははしゃぐ気になれなかった。このブスが大嫌いだった。そもそもぼくは自分以外の人間がだいたい嫌だ。

 

小学生の頃、兄貴のゲームを勝手にプレイしてから、その主人公の病気をトレースしようと自己暗示をかけ続けているうち、本当にその病気に近い思考回路を手に入れた。あの日ゲームで見たように、人間はだいたいグロテスクな肉塊に見える。

日常系のアニメやまんがタイムきららなどは肉塊に見えない。人間とかけ離れているから。しかし彼らはとても幸せで平和そう。彼らを憎む毎日である。

 

話を戻そう。そうだ、ブスだ。あのブスのゴミクズは俺のTシャツにゲロを吐いた。

オタサーの飲み会をしていた。ぼくは唯一の友人がこのサークルの主催なので仕方なくこういう催しに参加する。意外なことに、ぼくは結構こういう集まりを楽しむことができる。

なぜだろう、なにか全然別の人格がぼくの脳髄の奥底から出てきて、自己暗示の10年間で殺しきれなかったまともな人格が出てきて、まるで普通のやつみたいに社交をするのだ。毎回驚かされる。

この日、ゲロ袋はぼくの隣に座った。しばらく気づかなかったが、ぼくの足などをあの汚い雑菌まみれの手でぺたぺたぺたぺた触ってくるところで勘づいた。

このゲロは、自分に興味ないように涼しい顔をしているぼくが憎たらしく、まるで最後にひとつだけ残ったビデオゲームの実績のように見えて、ぼくを今日晴れて「解除」しようと企んでいるんだ。ぼくをそこいらのオタクと同じ目でしか見ていないのだろう。

 

性的な視点で見られた。こんなゲロ袋に、このグロテスクな肉のゲロ袋に、セックスとして認識されてしまった。

 

途端、ぼくの社交人格は再び妄想の肉塊に押しつぶされ、ぼく本来の人格が戻った。

 

「ァ、んっ、脚を触るなァアアアアイ!」

 

逆上したぼくは即座に立ち上がり、大声で叫ぶ。

 

「お前、おい!お前!気持ち悪い…気持ち悪いんだよ。豚の心臓のような見た目で、ぼくをその粘液で汚して、雑菌を感染させて殺すつもりでしょ?分かってる。知ってるんだよ。分かるか?

クソ。やめろ。やめろって言ってる!

やめろ!アアアアアアアア!!!

やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!

ぼくを殺すんじゃない。ぼくは病気なんだぞ。認識がおかしくなる病気です。

保護されます。ぼくは保護します。国が保護します。豚を殺すんじゃ、殺す。

セックスしようとするな!ぼくに雑菌をやめろ豚の心臓。豚の心臓はぼくの雑菌をやめろ!!」

 

大声でまくしたてて、はっと気づくとサークルのやつらは呆気に取られて、困惑しきって、どうすればいいか全く考えあぐねていた。

 

ワンテンポおいてゲロ袋はわあわあ言い出した。泣き出したんだと思う。よくわからない。

 

何人かが何か非難の目を向けた。ぼくに非難の目を向けた。ぼくを排除しようとしている。

このブスのせいだ。この醜い、グロテスクの肉塊がいるからいけないんだ。

ぼくはゲロ袋の真ん中の辺りを殴った。拳にうんと唸りをつけて殴った。人体でいう腹のあたりにあたった。

 

袋の真ん中を強くたたくと中身がいきおいよく出てくる。ゲロ袋の場合はゲロを出した。ぼくと対峙していたのでぼくの胸に吐いた。

ぼくのTシャツが汚れた。ぼくは死んでしまう。雑菌がぼくを侵してしんでしまう。

 

半狂乱のぼくはゲロ袋を必死に排除しようとした。叩いて、蹴って、店の外になんとか出した。

そうしたら、あなたら、警察が来ておこられたんだ。

 

ねえ、こんなのおかしいじゃないですか?

ぼくの友達はサークルを運営しているし法学部ですよ。きっとぼくの精神異常を認めて無罪にします。

ぼくは健常者とは違いますからね。お前には、気持ちが、分からない。