時給782円

 

【16:00】

そろそろバイトに出かける準備をしなければならない。憂鬱だ。

失敗したら先輩に迷惑をかけてしまう。店長が持て余したように、諭すように注意してくる。嫌だ。僕を排除するな。

僕はここにいなければいけないんだ。排除されたら逃げたくなってしまう。逃げられないのに逃げたくなるのは辛いんだぞ。

お前らに、逃げたい奴らの気持ちなんか分かるか。

いや、分かるのかもしれない。だからこそ嫌だ。

社会が崩壊すればいいのに。

 

 

【16:30】

出発

 

 

【17:00】

店の前で何度も時刻を確認する。シフト表をスマホで見る。照らしあわせる。何回も。

遅刻していたら、そうしたら準備をしておかなければ。いかにもすまなそうな顔をする準備を。そうしなければ排除される。

 

 

【17:30】

ゴミ箱にゴミが溜まっている。七割がた満杯だ。

後での作業が楽になるように今捨てに行っておきたい。

しかし、今ゴミ捨てに行ってもいいんだろうか。今じゃなかったらどうしよう。

だいたい僕はコンテクストを読むことが苦手だ。アスペルガーとかいう頭の病気なんだ。知能が低いんだ。

社会不適合だ。そんな奴がここにいちゃいけないんだ。誰も望んでいない。

でも僕はここにいなきゃいけないんだ。そうじゃなきゃ、クソ健常者のクズどもが闊歩するこの社会を生きていくことが出来ない。あと50年程度はこの健常者のゴミ溜めでニコニコと薄気味悪い健常者のようなフリをしながらゴミ捨てをしなきゃいけない。

そうしなきゃ僕は存在出来なくなってしまう。死ななければいけなくなってしまう。

辛さから逃げてはいけないんだ。死にたくなければ、生きているしかないんだ。ヘラヘラと気色悪い、生殖のことしか考えていない糞袋として、しかしフツウな受け答えが出来てフツウな思考ができる糞袋のフリをして生きているしかないんだ。

 

 

【20:30】

何がしたいのって聞くのは何を聞いているんですか、先輩。答えを求めていないでしょ。

答えを求めていない問いを出すのは残酷ですよ。

その残酷さが分かりますか。分かっていて出しているんでしょう。

ああ、いけない。これじゃあいけない。周りの人間全て打算的に見えてしまう。

それは健常者も同じらしい。でもきにするのはキチガイだけ。フツウの人はキニシナイ。キチガイもキニシナイ。キチガイはどこかでシヌ。みんなフツウにシアワセ。キチガイもシアワセ。

みんながシアワセになってくれればいいんだ。

そうしたら僕は死ななくていいんだろう。どうせ、そういうことでしょ?

 

 

【21:30】

終わったからタイムカードに紙を差し込む。機械が磁気情報を読み取り、計算し、結果を印字し、吐き出す。人間である自分が惨めで厭らしくみえてくる。人間の中でもキチガイである自分が何よりも惨めで厭らしくみえてくる。

人間は純粋に数学的問題を解くことを目的にできない。社会的な評価とか欲求が満たされたのに反応した脳内の報酬系が物質を出す、それだけのために全てをやっている。

作って、破壊して、無駄にして、また作って、無駄にする。これを脳内物質のためだけにやっている。糞袋が。

コンピュータこそ高尚な存在だ。悲しい。僕がコンピュータになれないのが悔しい。

 

あっ。口角を上げて目を開けなければ。

 

「あ、お疲れ様っす!お先失礼しまーす。先輩、じゃあまた明日ぁ」