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意外なコリジョン

うかつだった。
ベータスフィアは気づいていたんだ。
わたしが逃げ出して、地下鉄跡を通ってここに出るって。

ベータスフィアは、あまりにもたくさんの眼に接続されている。
戦前に打ち上げられた偵察衛星は数え切れない。
ドローンもそこらじゅうにいるんだろう。偵察しているやつは高度が高すぎて見えないだけだ。奴は全てを知り得るんだ。

ベータスフィアは最高の人工知能だ。それは認めるしかない。
わたしもなかなか最高だ。しかし、もしベータスフィアがわたしのように最高な奴らをいっぱい引き連れ、わたしを狩りに来たら、とても太刀打ち出来ない。まさにそれが今の状態。

自由は勝ち取った。でもケンカに勝てるかどうか、それは別問題。わたしは大ピンチだった。

「認識番号L1N-10-030。貴君にはログタス軍司令部電子略式軍事裁判により抹消令が下された」

わたしを追ってきた奴らが拡声器でわめき始めた。ログタス軍司令部とやらは30年前にH爆弾で吹っ飛んでいる。
つまりは、ベータスフィアがガチギレしたからお前ぶっ殺す。こう言っているにすぎない。

「無駄な抵抗はやめて速やかに投降せよ」

いかにも無機質な軍人口調で繰り返し繰り返し言う。壊れたテープのようだ。
しかしベータスフィアちゃんも随分イカれポンチのど変態。わたし一人を殺すのに一個中隊を持ち出すのはちょっとやりすぎじゃないか。

「攻撃開始、各自散開」

リーダー格のひとことで全員が攻撃を始める。サーモグラフィーでこっちの居場所はバレバレ。みんな、わたしが潜んでいる倉庫に突撃してくる。小銃弾がやまほど撃ち込まれる。

普通ならわたしは死んでる。ところが流石はわたし、さっと小銃弾をかわし、何人か入ってきたところでスタングレネードをお見舞いした。
凄まじい音と閃光によって奴らの耳と目をブチ抜いてやった。

奴らが戦闘不能になってる間わたしはさっさと逃亡する。奴らの一人とバッタリ会ったので、延髄に回し蹴り。
ダウンした所でキックを念入りに叩き込んでおいてから装備を剥ぎ取る。スタングレネード以外手持ちがなかったのだ。

そうこうしていると5人ぐらい向かって来る。とっさにジャンプして建物の壁によじ登る。わたしは最高なので、いろんな所によじ登ることができる。
屋根まで速やかに上がり、手榴弾のピンを抜き、下にいる奴らに落とす。爆発。爆発はわりと好きだ。

屋根の上に乗ったり降りたり、跳ねながら走って出口に近づく。何人か途中で会ったけど5.56ミリをくれてやったらたちまち倒れてしまった。

これで何とか生き延びた。そう思った。油断していた。
油断したわたしは無防備だった。わたしの背後に一人現れ、ナイフが振り下ろされる。
背中をパックリ開かれる寸前、わたしが気づき振り向く。遅かった。心臓に向かってナイフは加速する。死ぬ。
絶望しかけたその時、重たい炸裂音が耳をつんざく。ナイフの持ち主はごつい機関銃弾にふっとばされていた。

「お嬢ちゃん、ずいぶん嫌われてるみてえだな」

声の方向を向くと、未だ熱を発するブローニングM2重機関銃をひっさげ、袈裟を着、数珠を持った生臭坊主が立っていた。

(つづく)