侵蝕と対策(1)

数学嫌いが多い中で高等数学をとっている人間は奇特であり、他の進学教科が2クラスあるのに高等数学だけ1クラスしかない所にも生徒の少なさが現れていた。

その少ない生徒も小難しい授業にだんだん興味や熱意を失っていき、18人いたクラスは2年目が始まるころには6人になっていた。

そんな経緯から、クラス外から変なガリ勉どもだと思われていた我がクラスであったが、その中でもとびっきりに優秀な成績を残していたのが錦場だった。
高等数学に残った唯一の女子にして、テストではぶっちぎる。2位についていたのはテスト時間が延長してもらえる留学生であったので、実質的に他の生徒など比較にならない成績なのだった。

錦場は勉強もロクにしない。試験前にパラパラと教科書をめくって試験勉強を終わらせる。それだけで普通数学と高等数学、その他もろもろの理系教科で学年トップの成績を取る。

「あんなに頭いいのは、頭おかしいよな」

恐るべき頭脳をもっている、小柄でぽけっとし錦場に畏怖の感情すら覚えつつあった工藤は、留学生にぼやいた。

「はい。高等数学だけじゃなく生物、科学、物理でも学年トップ。ベンキョしているのだろうと思いましたが、こないだ、スーパーにいました。見ました」

留学生はここに来て3年目にしてはよく喋るが、時々やたら早口になってなにを言っているのか工藤には分からなくなることがあった。気はいいやつだと思われた。

「スーパーで見たのか、錦場を。なんか買い物でもしてたのか?」

「買い物じゃない。アルバイトで働いてました」

勉強してないと言い張るのはイヤミか嘘かと思っていた留学生も、スーパーでレジ打ちをしている錦場を目の当たりにして、彼女の恐ろしさを信じない訳にはいかなくなったようだった。

「どうしたら、ああなるか?工藤、分かるか」

留学生はもう呆れたように言った。

「分からん。分かっていたらこんな数字は出ないよ」

そう言って工藤は一枚のプリントを差し出した。相対成績評価だった。25が最悪で、1が最高。工藤のプリントには12と印刷されていた。

「これなら悪くないです。進学に苦労しないだろ」

甲斐甲斐しくフォローしてやろうとする留学生に苦笑を返した。

「錦場は2以上をもらっているんだ。1も狙えるかもしれない。卒業するときに1ならどこにでも奨学金つきで進学できるんだぞ。そんな奴を見ているのに、こんな中の上程度の成績で喜べるかよ」

留学生は返答に困ったのを誤魔化そうと、コンピュータに向き直り作業を再開してしまった。

(つづく)

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