イヤホンは断線する

憂鬱だ。買ったばかりのイヤホンが断線したのだ。
だいたい私はイヤホンを断線させすぎる。今年に入ってから、もうこれで三個目だ。
もうイヤホンは買わない。

通勤途中。音楽を聞けないのでムシャクシャする。
みんな私を見ている。私を見て笑っている。
なにもかも厭になったので、透明化した。

透明化している間は開放的だ。何をしても人から咎められることなどない。誰にも見えない存在に誰が意見できようか。

しかし、あまり悪いことをするとよくない。自分の良心が痛む。

だからやることは奇行の域を出ないものに限られる。
今日は街中ででんぐり返しをしようとした。人々がぶつかって来るのでロクに出来なかった。やがて飽きて、やめた。

気が済んだので透明化を解いてラーメン屋に行った。
タオルを頭に巻き、厨房に立つ。するとどうだろう。気力が湧き上がってくるようだ。

スープを仕込み、麺を仕入れ、バイトのシフトを組んだ。開店の時間だ。

「へいらっしゃい!」

お客が満足そうに帰っていく姿を眺めながらラーメンをつくっていると、イヤホンが断線したことなどはどうでもよくなった。
こういうのを生き甲斐と言うのだ。