読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

中華街(1)

創作

「あーっ。ペペロンチーノが食べたいなーっ」

ペルシャはピンク色の箸を放り出してわめいた。イタ飯かぶれの彼女にとって、中華料理はもう飽き飽きなのだ。

「そんなこと言ったってしょうがないだろう」

呆れ顔で応じたのは食卓の対角側に座った男。四角い顔に汗がてらてら滲んで光っていた。

「ここは中華街だ。ペペロンチーノなんて無い」

男は筋肉で大きく盛り上がった腕を繊細に動かし、レンゲの上の小籠包をあざやかに口へ運んだ。咀嚼しつつ表情が満足げになった。

ペルシャは納得しない。

「いやだーっ、ぜったいにペペロンチーノが食べたいんだーっ」

男がもはや無視して黙々と食事に集中し始めた。いつものことなのだ。

戸を二回叩く音がした。

「ごめんください」

出迎えると、そこに立っていたのは刑事だった。

「夜分遅くにすみませんね」

すっかり顔なじみになった中年で小太りの刑事は、何やらいつになく深刻そうだった。

「一体どうしたんだ」

刑事は周りをわざとらしく見て、誰もいないのを確認すると男に向き直り、告げた。

「さっき、キツネ耳が殺されているのが見つかりました」

(つづく)